俺が書きたくなった物語 | 世界と日々と君と僕

俺が書きたくなった物語

 でんきをまもるおとこがいた。

 やまからやまへ、うみぞいのきょだいでんきプラントから、くにじゅうのまちにひかりをともすこうかせんを、おとこはもうなんじゅうねんもまもってきた。だからおとこはでんきもりとよばれていました。


 でんきもりのしごとはたんじゅんで、けれどかれにしかできないしごと。なぜなら、でんきもりはひどくやせていて、さらにしごとのいそがしさから、もうなんねんもまともなしょくじをとっていなかったので、ほそくふあんていなこうかせんをわたるのにおあつらえむきだったのです。まいにちまいにちとうからとうへ、こうかせんづたいにわたっていって、いじょうがないかてんけんするしごとをくもなくこなしていった。


 いったいどんなきもちで、このこどくなさぎょうにみをおいていたのだろう。まぶかにかぶったぼうしから、かれのひょうじょうをよみとることはできないけれど、つらかったにちがいない。そんなかれをささえているのはつよいしめいかんでした。ぼくがいなければこのまちもあのまちも、よるのやみにおおわれてしまう。こどもがやみにおびえてしまう。でんきもりはそうおもっていました。かれは、かえたばかりのフィラメントでんきゅうのようにわらう、こどもたちのえがおがだいすきだったのです。


 ところがあるとき、うみのむこうのせんそうが、かれのくにをまきこみはじめた。せんそうは、なんじゅうねんもつづいた。そのあいだも、でんきもりはいっしんふらんに、せんかにおびえるこどもたちのために、でんきをまもりつづけた。


 でんきもりのがんばりもあって、やがてせんそうはおわりました。まちはふっこうにむけてうごきはじめていたので、でんきもりはますますいそがしいひびをおくらなければならなかった。けれど、かれはうれしかった。これからは、もっとこどもたちをあんしんさせるでんきをおくるぞ。かれはそうけっしんしたのです。


 あるとき、でんきもりはこうかせんのしたで、だれかがうわさばなしをしているのをききました。それはこんなないようでした。せんそうでなくなったたくさんのおとなたちのたましいが、こうかせんのむこうにある。こうかせんをつたっていけば、おとうさんやおかあさんにあえるんだ。


 ねもはもないうわさです。けれどそのうわさをしんじたおやのないこどもたちは、どんどんこうかせんをのぼってきます。なんのくんれんもうけていないふつうのこどもたちは、あしをふみはずしたりかぜにあおられたりして、まっさかさまにおちていった。でんきもりはなんどもこどもたちをあしどめしようとしました。でんきもりのいるばしょはたったひとつのなので、ひとりではとてもげんどがありました。それにいつものてんけんをおこたっていると、くにのでんきがストップしてしまうのです。けれどでんきもりは、どうしてもいつものしごとにむかうことができませんでした。どんなにつらいことにもたえてきたかれでも、だいすきなこどもたちがしんでいくことにたえられなかったのです。


 こうかせんをわたるこどもはひにひにかずをましていき、ついにはそのくにのこどもはほとんどいなくなってしまいました。てんけんをおこたっていたので、ぼろぼろになったしまったこうかせんにすわって、でんきもりはかんがえていました。ぼくはもうなにひとつするきりょくがおきない。こどもたちのえがおはえいきゅうにうしなわれてしまった。


 ぜつぼうにひたるかれを、こうかせんごとオレンジのゆうひがてらしていた。いつまでもてらしていた。