俺と死に損ないと女子高生 | 世界と日々と君と僕

俺と死に損ないと女子高生

 問い詰めたわけではない。そもそも責める気なんてさらさらない。だが彼女は少し気まずそうな顔で言った。「朝から心臓が痛くって」



 塾講師のバイトでのことだ。三十分以上遅刻して席に着いた彼女は、最初おずおずと上目遣いで俺と目を合わせた。何かいいたげな視線でだったが、俺はにやにや笑っていた。ほっときゃ何か素敵なイイワケをするんじゃないかと、ちょっと期待しながら。で、飛び出たセリフがコレである。



 なんぼなんでもひどすぎるんじゃないか。いや、まあ俺もひどい。性格悪いです、ええ。でもそりゃねえんじゃねえか。あまつさえ「一限からずっと痛くって」と付け足すに至っては、むしろ俺の心臓がやられてんじゃねえかと。



 が、まあそんないいわけを彼女から引き出してしまった責任は俺にある。忌むべき悪魔を生み出してしまった造物主の気分とでも言おうか。なんとかせねばなるまい。突如沸き起こる使命感に高揚しつつ、俺は言った。「おいおい、心臓って、おまえそりゃねえだろ心臓って」「だって痛いんだもん」「痛いっておまえそりゃやべえぞ。死の淵だぞ。瀕死だぞ」「死ぬもん」「いや死ぬもんていうか、死にません!ボクは死にましぇん!わかる?これわかる?あー、古いかあ、古いかな。あへ、俺空回っちゃった?うへえ、参ったなどスルーですかてへ」「え、バカ?」



「・・・え?」



 絶句することしばし。一瞬飛びかけた意識をなんとかたぐり寄せ、震える唇をかみ締めつつ俺は言った。



「それじゃあ、単語テストからはじめようか」