俺と料金未納と弟 | 世界と日々と君と僕

俺と料金未納と弟

 「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人なり」、なんてもうしますなぁ。世の諸行無常と、それとは無縁になりえず、うつろいゆく己自身の時間。松尾芭蕉の嘆きのような、旅立ちへの想いがつづられた、奥の細道序の一文です。



 いやあ、まったくです。時間というのは無常なものなのです。親父の頭に混じり始めた白いもの。オカンの声に混じり始めた重低音。弟の下腹部に生え始めた幼い産毛たち。三日前の飯なに食らった覚えとらん自分も。これ全部時間のせい、まじだりい。老化更年期障害二次性徴若年性痴呆症、これすなわちみなすべて憎むべき敵、時間の所作なのだと、俺はここに断言したい。断言せずにはおれません。



 そのように時間について日ごろから憤りを覚えていた俺のもとに、一通の手紙が届いたのはきのうのこと。自分の利用するプロバイダからでした。曰く『支払いの期限が過ぎております。本請求書を持参のうえ、所定の振込み先に』云々。そして文章はこう締めくくられていたのです。『なお、料金の未払いにつきまして、遅延金が発生いたしましたので、その旨ご了承ください』云々。



 (ああ!?なめとんのかコラと。なめんなと、宇宙の時間なめんなと。おまえはビッグバンがどんくらいまえの出来事かしっとんのかと、あまつさえ地球誕生は何億年前かしっとんのかと。それに比べたらおのれらが言っとる遅延なんぞ塵だっつうの宇宙の塵。おまえら塵のために無駄なインク及びプリンタ及び紙及びその他諸経費つかっとんのかこらぼけ)



 今すぐオペレーターのねえちゃんに問い詰めたい心をなんとか抑え、俺は弟の部屋のとびらをノック(ガラス張りの引き戸なので、ガシャガシャと不快な音をたてました)しました。なぜなら、名義こそ自分のものになっているとはいえ、プロバイダ料金は弟が支払うことになっているのが我が家の鉄則、鉄の掟、血の盟約なのであります。



 以下、わが家の会話抜粋。

俺「なあ、おまえ、プロバイダの料金、未払いだぜ」

弟「ふーん。わかった、払っとく」

俺「う、うん。頼むわ」



 なんか最終的に弟にお願いする形になってる気がするのは俺が若年性痴呆症だからでしょうか。真相は闇です。