第三回・静かなまなざしの変態『理髪店主のかなしみ』 | 世界と日々と君と僕

第三回・静かなまなざしの変態『理髪店主のかなしみ』

 田口トモロヲ演じる理髪店主の抱えるかなしみは、彼のもつ換わった性癖に由来するものである。彼はいわゆる足フェチのドMなのだ。


 フロイトの時代に定義された異状性癖は、価値観の多様化する現代においてはそれなりの容認を得てきたものの、理髪店主のドヘンタイぶりを認めるというのは、僕にはちょっと難しかった。


 性癖がもたらす店主の妄想は、シュールであり、それに反して彼はあまりに現実的な人間である。現実と妄想を行き来する店主のまなざしは、コミカルであるのにものがなしい。


 だが彼のまなざしが本当にかなしみを見せるのは、実は念願かなって女王様(と彼が心の中であがめる女性)に蹴り飛ばされるシーンであったのではないかと思う。
 虐げられることが快感という店主のそれは、到底一般人と共有できる感情ではない。だが愛した女性にそれを求めてしまう。それこそが不幸であり、かなしみなのではないか。


 公衆の面前で愛する女性に足蹴にされ、恍惚とした表情を浮べながら、実は共有されない愛情に静かにかなしんでいる。店主のかなしみは絶望ではなく、かなしみという言葉がぴったりくるものなのだ。
 だがその男の生き方に、僕は、なにか救いのようなものを感じてしまう。フェティシズムを抱え苦悩するのではない生き方に、安心してしまうのである。生きるって素晴らしいなと、見当違いな感慨を抱いたものだ。


 今回は内容にほぼ触れずに書いてしまったなあと反省しつつ、僕のブログ第三回は幕を閉じるのであった。